日本人が知らない 恐るべき真実『赤い楯』広瀬 隆 著>より
ハリウッドの大プロデューサー、ダリル・F・ザナックは、『荒野の決闘』や『史上最大の作戦』など、大作を次々に製作した。息子のリチャード・ザナックも『サウンド・オブ・ミュージック』や『スティング』などを製作したドル箱一族だ。
ダリル・F・ザナックは、正妻として20世紀フォックス生みの親ウィリアム・フォックス一族と結婚したおかげでハリウッドの独裁者として君臨することができた。このザナックは1934年に『ロスチャイルド家』という作品を制作し、これが彼の不朽の名作として今日まで映画界で最高の賛辞を贈られている。それは次のような物語であった。
「金こそ、ユダヤ人を救うただひとつの武器だ」と五人の息子に言い残して息を引き取った初代マイヤー・アムシェルの姿から始まり、ネイサン、ジェームズたちが次々とヨーロッパに散って活躍する様子が追跡されてゆく。
やがて、ナポレオンとウェリントンの戦いが起こり、宿敵ベアリング家との攻防、そしてヨーロッパに平和をもたらす五人兄弟の結束が描かれ、ネイサンが“ユダヤ人の威厳”を口にしながら、一族の栄華と結束を訴えるという作品であった。
ザナックは、こうしてロスチャイルド家と深い関係を結んだおかげでハリウッドの巨人としてのし上がり、戦後は、『エデンの東』のエリア・カザン監督と組んで、ユダヤ人問題を描いた『紳士協定』を世に問うた。
そして、『シェルブールの雨傘』には、ふたつの重大な問題が秘められていた。
映画の中でフランスの若者が出征してゆく先はアルジェリアで、フランスの侵略戦争がミュージカルというエンターテインメントの中で美化され、悲恋の曲に全世界の観衆が同情の思いを寄せて讃美してしまう、という落とし穴が掘られていたのである。
もう一つの問題は、ロスチャイルド財閥が、この作品の舞台となったシェルブールという田舎町に、ウランとプロトニウムを大量生産するための再処理工場、世界最大のラ・アーグ再処理工場を建設するプロジェクトを進めていたことである。ジャック・ドゥミ監督の妻で自身も監督であるアニエス・ヴァルダの弟ジャン・ヴァルダは、フランスの商工信用銀行の重役であり、この銀行の重役ブノワ・マルシラシーは、ロスチャイルド銀行の代理人として知られ、この銀行が原子力の工業界に投資していたのである。